現在、実力派の歴史・時代小説家として、大車輪の活躍をしている澤田瞳子。その作者が、作家になる以前に編んだ時代小説アンソロジーが本書である。テーマは〝猫〟。時代小説ファンのみならず、愛猫家にもお薦めできる一冊だ。
収録されているのは十作品。岡本綺堂の「猫騒動」は「半七捕物帳」、平岩弓枝の「薬研堀の猫」は「御宿かわせみ」と、人気シリーズから採られている。猫というテーマによって、お馴染みのシリーズを、違った角度から味わえるところに、アンソロジーならではの楽しみがあった。
もちろん他の作品も面白いのだが、それとは別に注目したいのが、澤田瞳子の「編者解説」だ。各作品の魅力を伝えるのは当然として、日本の随筆・日記・文学などで描かれた猫についても、手際よく説明しているのである。これが本書の、もうひとつの読みどころなのだ。広範な知識に支えられた、猫三昧の解説から、やがて作家になる力が垣間見えるのである。