数々のユニークな時代小説シリーズを発表している風野真知雄だが、連作短篇集の本書はとびっきりだ。なにしろ本所の長屋で暮らす佐平次の商売は、「穴屋」である。
壁だろうが地面だろうが、どんなものにでも穴を開けるという佐平次。冒頭の「穴屋でございます」では、葛飾北斎の依頼で、美女を覗くための穴を掘ることになる。意外な展開を挟んで、ラストで明かされる北斎の真の目的は、作者ならではのものであろう。
その他、墓穴を掘ってくれという蜀山人の依頼が、なぜか東洲斎写楽の正体へと繋がっていく「
さらに、佐平次の正体が判明する「土が好き、穴が好き」を経て、ラストの「愛する穴屋」で、彼の穴好きの理由も分かり、物語は大団円を迎える。一冊の本に、これだけネタをぶち込んでくれるとは! 作者の人気の高さに、深く納得してしまうのである。