書物目利所 達眼老練の四〇〇字書評 細谷正充

細谷 正充

高瀬川女船歌〈九〉

似非遍路

澤田ふじ子 /著

レーベル:徳間文庫
出版社:徳間書店
刊行日:2017年1月7日
価格:670円+税
判型:文庫

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 わけあって武士を捨て、今は高瀬川筋の樵木町にある居酒屋「尾張屋」の主人をしている宗因。いぶし銀の魅力を放つ彼を中心に、高瀬川に集う人々の哀歓を描いた、澤田ふじ子の「高瀬川女船歌」シリーズも、早いもので第九弾となった。
 本書は、短篇六作で構成されている。幼い娘の眼前で自害した母親の一件を扱った「禿髪の娘」や、家業の在り方に悩む男を宗因が諭す「穢土の商い」など、どれも読みごたえあり。そのなかで特に注目したいのが、表題作の「似非遍路」だ。
 旧友を訪ねた淀の地で、四国遍路に出かけているはずの塩問屋の主人・播磨屋九郎左衛門を見かけた宗因。かたくなに別人だと言い張る播磨屋だが、宗因の追及により、意外な事情を打ち明けるのだった。
 歳月の重みを感じさせる、播磨屋の事情が興味深い。また、それを聞く宗因や、彼が訪ねた旧友も、過去を抱えている。だから、登場人物の人生が響き合い、深い余韻が生まれているのである。本書のベストだ。

細谷 正充

ほそや まさみつ

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