葉室麟の作風は幅広いが、硬軟で分けるならば、本書は〝硬〟に属する作品といえよう。真摯なテーマに正面から取り組んだ、重い物語なのだ。
博多の仏師・柊清三郎は、己の彫る木に仏性を見出せず、三年間、京で修行をする。しかしその間に、博多の師匠が殺され、師匠の娘で妻のおゆきは身を汚されて、行方が分からなくなった。自分の行動を悔いた清三郎は、ひたすらに妻を追い続ける。
本書には、ふたつの苦悩がある。ひとつは清三郎の妻に対する想いだ。妻に拒絶されながらも、彼女を追い求める主人公の苦悩に胸打たれた。
そこに、もうひとつの柱である、仏師としての苦悩が絡まる。何かをつかんだと思えば、さらにその先がある、果てなき道。ふたつの苦悩に苦しみながら、歩むことを止めない清三郎の到達した境地に、本書のテーマと、作者の祈りが込められている。
また、実在した豪商の処刑や、仏教でありながら幕府に弾圧された〝不受不施〟の使い方も見事であった。