鈴木英治の発想力に限界はないのか! と、叫びたくなるほど、本書の設定はぶっ飛んでいる。羽柴秀吉の水攻めにより陸の孤島と化した備中高松城で、殺人事件が起こるのだ。
殺されたのは城主の清水宗治に仕える、老臣の北原甚兵衛。小早川隆景の命により、舅の末近左衛門と共に、高松城に派遣されていた目付の川名佐吉は、事件の探索に当たる。飢えにより追いつめられていく城内に、犯人が居ることは間違いない。何者かに命を狙われながら、佐吉の探索は続く。
ミステリーには、「閉ざされた山荘」テーマというものがある。外界と隔絶した状況で、主に殺人が起こるという内容を指す。それを戦国の有名な史実である、高松城の水攻めでやったところに、作者の独創があった。
しかも、関係者への聞き込みから浮上してくるエピソードが、戦国武士の行状や、戦国という時代の在り方なのだ。事件の真相も面白く、まさに戦国時代でなければ成り立たないミステリーとなっているのである。