御年八十一歳の新人・小泉盧生のデビュー作が刊行された。それが本書だ。京都の東西両本願寺が寺内町に設けた寺内奉行所の目付である、黒田荘十郎の活躍を描く短篇四作が収録されている。
寺内町が徳川幕府から、ある程度の自治を認められていたことは史実である。作者はその点に注目して、寺内奉行を創り上げた。まるで本当に存在したかのような、詳細な設定が素晴らしい。新人離れした筆力だ。
さらにストーリーが読みごたえあり。強訴をしようとする農民一行の中にいる少年を救う「丹波の小壺」や、醜い欲望で人を斬った武士を追う「愚かな刺客」、無住の寺に巣食った悪党どもを退治する「冬の鴉」と、荘十郎が八面六臂の大活躍。人情家だが、悪には果断な主人公の、いぶし銀の魅力が光っている。
また、荘十郎が仇討ち騒動を見届ける「仇討ちの蕎麦」は、登場するキャラクターがみんないい。彼らをレギュラーに加えた、シリーズ第二弾を熱望しているのである。