徳川十一代将軍家斉の御落胤だが、団子坂で飯屋「あまから屋」の主人兼料理人をしている飛川角之進。女房のおみつが妊娠して、まずは幸せ一杯だ。店の常連や家族たちと、賑やかに喜びを分かち合う。
といったように、倉阪鬼一郎の「若さま」シリーズ第七弾は、開幕からしばらく、幸福な日常風景が続く。だが、美濃前原藩の江戸家老が登場すると、物語が大きく動いた。なんと死病の床にある藩主の養子になり、次の藩主になってほしいというのだ。藩の事情を知り、一時の繋ぎ藩主を引き受けた角之進。これにより彼の人生は、激しく変わっていく。
ファンならご存じだろうが、角之進は、柳生新陰流と将棋の達人だ。しかし本書で彼が腕を振るうのは、生涯一度の御城将棋だけ。刀の方は、一度も抜くことがない。それでも面白く読めるのは、作者の確かな手練があったればこそだろう。そして、藩主になってしまった主人公の、これからが気になってならないのである。
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