ああ、またこの店に来ることができた。今井絵美子の「夢草紙人情おかんヶ茶屋」シリーズの新刊を手にするたびに、そう思う。第七弾となる本書もそうだ。本を開けばすぐに〝おかんヶ茶屋〟の常連気分に浸れるのである。
本書には「春日茶寮」「優しい嘘」「春夜に想う」「おまえと共に」の四作が収録されている。未来を切り拓こうとする男女のストーリーや、夫との暮らしに慣れ切った妻に訪れた迷いなど、すべて男女の関係がメインになっている。そこに〝おかんヶ茶屋〟のお蝙や、常連客たちが絡まり、味わい深い物語に仕立てられているのだ。
また、ラストの「おまえと共に」で、死にゆく者と残される者の想いが描かれている点にも留意したい。今年(2016)刊行された『いつもおまえが傍にいた』で書かれているが、作者はステージ4の乳癌で、余命三年の宣告を受けている。そうした自身の体験が、内容に反映されているのだろう。心して読みたい一篇なのだ。
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