ホントはいい人、義光公
この小説を書くきっかけは、ふと、「悪いヤツを主人公にしたい!」と思ったことでした。
そこで、謀略の限りを尽くしてのし上がった最上義光を調べはじめたんですが、人となりを知ると、全然悪いヤツじゃなかったことが発覚しました。気は優しくて力持ち、和歌を愛し、妹想いで家臣からはやたらと愛されるお人よしのボンボン。それが、義光という人物だったのです。
こりゃまずい。当初考えていた人物像とはだいぶかけ離れているぞ。しかしながら、今度はそんな彼がなぜ謀略に手を染め、落ちぶれた最上家を一代で大大名にまで押し上げることができたのかという疑問が湧いてきました。
彼は出羽の名門最上家の跡取りですが、家督継承の際には父と激しく争い、当主となった後も権謀術数を駆使して、領土拡大を目指します。しかしそこには、隣国の大大名・上杉景勝、愛する妹の息子・伊達政宗、天下人豊臣秀吉といった超大物たちが立ちはだかっていました。そこで生き延びるために義光が下したある決断が、結果的に悲劇を招きます。
そして迎えた関ヶ原の戦い。義光は故郷山形の地で、直江兼続率いる上杉の大軍を迎え撃つ決意をするが……。
とまあ、なかなか波乱万丈な人生を送った魅力的な人物なんですが、どういうわけか歴史小説でも大河ドラマでもあまり出番がありません。やはり、「独眼竜政宗」での腹黒いイメージが強いのでしょうか。とはいえ、義光が有能な戦国武将で、現在の山形の礎を築いたのが彼であることは間違いありません。
この作品で、“梟雄”、“策謀家”として語られることの多い最上義光のイメージ回復に多少なりとも貢献できればと思う次第であります。
[平成28年(2016)9月2日]