近年、文庫書き下ろし時代小説界で存在感を増している飯島一次が、いよいよ徳間文庫に登場した。新米同心を主人公にした捕物帖だが、ストーリーが一筋縄ではいかない。
すぐにもらい泣きをするほどのお人好しだが、出世にも手柄にも興味がない、南町奉行所定廻りの新米同心の植草平助。そんな主人を馬鹿にする同僚どもを、見返してやろうと意欲を燃やす小者の佐吉。デコボコのようで相性抜群のふたりのやり取りが楽しく、どんどん読んでしまうのだが、なかなか事件が始まらない。全四章のうちの第四章に入って、ようやく殺人が起きるのだ。
黄金餅が評判の店の主人が殺されるのだが、死因は小判を口に突っ込まれての窒息死。おまけに事件の真相は、意外な形で明らかになる。ちらりと出てきた三遊亭円朝を使った、ラストのオチも秀逸。最初から最後まで、作者の手腕に翻弄されてしまった。おそらくシリーズ化されると思うので、今後のふたりの活躍が、楽しみでならない。