一九九〇年代から時代エンターテインメントを発表していた麻倉一矢は、文庫書き下ろし時代小説の波に乗って、さらにパワーアップ。幾つものシリーズを抱えるようになった。その作者の新作が本書である。
徳川将軍家と縁続きの勝田慎之助。父の死により寺の住職になった彼は、姉の月光院から、上様を守るよう懇願される。九代将軍の家重の命が狙われているというのだ。御三卿と某藩の思惑が錯綜する中、天下人に侍る〝公人朝夕人〟となった慎之助は、直心影流小太刀の腕を振るい、将軍を守護する葛西衆と共に、奮戦するのだった。
貴種ヒーローが、天下安寧のために立ち上がる。時代小説では、よくあるパターンだ。でも、本書は面白い。主人公の公人朝夕人という役目や、江戸の糞ふん尿にょうを処理する葛西衆の裏の顔といったフックが、読者の興味を強く惹ひきつけるからだ。
また、京きょう極ごく家の蛍ほたる姫ひめを始め、慎之助を取り巻くヒロインも魅力的。一気読み必至の作品だ。