書物目利所 達眼老練の四〇〇字書評 細谷正充

細谷 正充

いのち買うてくれ

好村兼一/著

出版社:徳間書店
刊行年月:2016年5月18日
価格:1,900円+税
判型:四六判

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 剣道八段で、パリ在住。長年にわたりフランスで剣道指導に携わる。ユニークな経歴を持つよしむらけんいちは、二〇〇七年に『侍の翼』で時代作家としてデビューすると、着実なペースで優れた作品を発表してきた。本書は、その最新の成果だ。
 徳島藩の下級武士・遠山弥吉郎は、重臣にだまされ刺客にされたあげ、妻とふたりの幼い子供と共に藩を追われた。名前を高宮進九郎と変え、江戸のせいで暮らし始めた弥吉郎だが、奮闘むなしく、しだいに生活がこんきゅうしていく。そして……。
 主人公の弥吉郎は、無骨な一徹者である。だからこそ彼は重臣に騙され、江戸の市井で苦しい生活を送ることになる。なんとか暮らしが安定したかと思うと、それを無にする事件や騒動が起こり、ついには己の命を売ろうとするまで追い詰められるのだ。それでも武士のきょうを捨てられない彼の魂は、愚かだが尊い。そんな弥吉郎を中心とした、家族の肖像に胸が熱くなった。人間の生き方の本質に迫った、素晴らしい作品だ。

細谷 正充

ほそや まさみつ

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