なんじゃこりゃ! と、叫びたくなる、とんでもない作品が現れた。定町廻り同心の邑雨真十郎を主人公にした捕物帖と書けば、よくある文庫書き下ろし時代に見えるだろう。だけど、出てくるキャラがみんな変。超絶美男子で生真面目な真十郎は、なぜか他人の加虐心をそそり、事件になると縛られ責められる。そのたびに瓦版に書き立てられ〝しばられ様〟と囃される始末。
そんな真十郎を窮地に追いやって、ハアハアしているのが、火付盗賊改方長官と南町奉行のドSコンビだ。さらに絵師の敬明が真十郎の責絵を、要所にばらまいている。また、真十郎の手下で、忍者マニアにしてべっぴん好きの久吉。真十郎にベタ惚れで、すぐに暴走する女武芸者のゆきわたちも、物語を賑やかす。収録された全三話、捕物帖としての骨格は確かなのだが、ユニークすぎるキャラたちと、自由奔放な文体に、そんなことはどうでもよくなった。でも、たまにはこんな、おふざけ時代小説もいいものだ。