とんでもない男とその仲間たち
『平賀源内江戸長屋日記』は、江戸中期~後期の浪人学者平賀源内を主人公に、江戸の町で起こる様々な事件を追いかけるシリーズです。一巻『春風駘蕩』に続き、二巻、三巻と立て続けに刊行をさせていただく予定になっています。
平賀源内といえば時代劇での出番も多い人気キャラクターです。エレキテルの発明(修理)に代表される発明家としての業績だけでなく、数々の戯作や芝居の脚本をものにし、しかも〝土用の丑の日に鰻を食べる〟ことをプロデュースした人物という説もあって、現代風に言うならばマルチクリエイターであったのが源内という男です。汲めども尽きぬ好奇心の井戸を心に持っていたのでしょうか。
経歴もなかなかすごいことになっています。高松藩の足軽の家に生まれながら頭の良さを見出され、運よく学問をする機会に恵まれた、というのでも結構な幸運です。普通、足軽の子にそんな余裕はありません。しかも、本格的な学問がしたいと一度藩を飛び出したにもかかわらず、その才能を大名に可愛がられ、復帰。価値のある植物・鉱物などの発見で大いに活躍する舞台まで得ます。ところが、源内は高松藩にとどまっていられるような男ではありませんでした。今一度藩を離れ、江戸で浪人の学者として再び活動を始めたのです。二度も主家を離れるなんて、当時の常識からするととても考えられたことではありません。
こんなとんでもない男、平賀源内とはいったいどんな人物だったのか。彼は何を望んでいたのか。そんな空想から、この物語は始まりました。考えていくうちに「源内に負けない脇役たちがほしい!」と思うに至り、物語の舞台は実に賑やかな〝変人長屋〟と相成りました。そこには女御用聞きや歌舞伎役者、駄菓子屋の女店主など、実に愉快な連中が住んでいて、時に源内を圧倒するような活躍さえ見せてくれます。
源内と長屋の仲間たちが一体どんな事件に巻き込まれ、どんな騒動を起こしていくのか。是非、皆様にもお付き合い願いたく思います。
[平成28年(2016)5月25日]