書物目利所 達眼老練の四〇〇字書評 細谷正充

細谷 正充

辛夷こぶしの花

葉室麟/著

出版社:徳間書店
刊行日:2016年4月8日
価格:1,700円+税
判型:四六判上製

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 九州ぜんたけ藩は、藩主と家老三家が対立している。藩主の信任厚いさわしょうの家には、嫁家を離縁された長女のが戻っていた。その志桜里が気にするのが、隣家のぐれはんろうだ。過去の出来事を悔い、刀のつばくりがたあさひもで付結んでいるため〝抜かずの半五郎〟と呼ばれている、捉えどころのない半五郎に、秘かにこころかれていく志桜里。しかし彼らは、藩内の対立にほんろうされ、思いもかけぬ事態を迎えることになるのだった。
 むろりんの新刊は、りんとした心を持つヒロインを主人公にしたラブ・ストーリーだ。それぞれの事情を抱える志桜里と半五郎が、藩内の騒動の余波に翻弄されながら、ゆっくりと距離を縮めていく。確かな筆致で描かれる、その過程が読みごたえあり。
 しかも物語は後半に入ると、意外な方向に走っていく。詳述は省くが、ここまで派手な展開になるとは思わなかった。抜群のエンターテインメントの中に、人の心の美しさをきわたせた、素晴らしい作品だ。

細谷 正充

ほそや まさみつ

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