通説を塗り替える
『真紅の人』は真田信繁麾下で戦った少年を主人公とする、大坂の陣を舞台にした小説です。小生は小さな幼稚園の副園長をかれこれ十数年やっておりまして、今ではすっかり成長した子どもたちに自作を読んでもらいたいという願いから、このような小説を書きました。
執筆にあたってはできる限り史料にあたりまして、考証に考証を重ねました。いい加減に調べたことで読者が勘違いしても困ると考えたからです。おかげさまで大坂の陣は通説が嘘だらけで、調べるのがまったく難儀でした。調査のために何度大阪に通ったかわかりません。今となってはよい思い出ですが、たった一つの史料を手に入れるために大阪歴史博物館に出向いた時など、「ああ、あの史料はネットで公開してますよ」と笑顔で言われて立ちくらみがしたものです。それもあってか、なんとか脱稿した後は一ヶ月ほど寝込みました。太陽が黄色く見えるというのはあながち嘘ではないと気付いたのも、まさにこの時のことです。
結果としましては、調査内容が歴史家の平山優先生のご著作に引用されるなど、まことに名誉なご褒美があり、非常に満足のいくものとなりました。戦国主要合戦史の通説を塗り替えるなど、一生に一度あるかないかの経験です。おまけに大河ドラマは「真田丸」。我ながら前世でよほどいいことをしたに違いありません。前世の自分の偉大さに、今さらながら感服している次第です。
神仏の恩寵を一身に浴び続ける男、蒲原二郎。卒園生から「先生、読んだよ!」という連絡はいまだにありませんが、今後も真面目に時代小説に取り組んでいきたいと考えております。
[平成28年(2016)4月29日]