徳間書店発行の「読楽」に掲載された時代短篇をまとめた、文庫オリジナル・アンソロジーが刊行された。それが本書だ。妖怪を視ることができる犬が、無理やり参加させられた伊勢参りで、新たな〝犬生〟を得る小松エメルの「件の夢――シロの伊勢道中」から、妖怪好きにはお馴染みの稲生武太夫が、奇妙なお家騒動に巻き込まれる乾緑郎の「隠神刑部」まで、全六篇が収録されている。
タイトルからも分かるように、本書のテーマは〝妙ちきりん〟な物語だ。先の二作の他にも、仁木英之の「魔王の子、鬼の娘」、輪渡颯介の「あけずのくら」、毛利亘宏の「妖刀・籠釣瓶」は、妖怪や怪異を題材にして、バラエティに富んだ〝妙ちきりん〟を繰り広げているのである。
また、天野純希の「異聞 巌流島決闘」は、宮本武蔵と佐々木小次郎の対決の意外な真相と、ふたりのぶっ飛んだキャラクターが楽しめる、異色の剣豪小説だ。たしかにこれも〝妙ちきりん〟な物語といえるだろう。