鈴木英治の「無言殺剣」シリーズは、ひとつの大長篇として捉えるべきなのだろう。だって第一弾で、主人公の音無黙兵衛が遂行した大名暗殺が、その後の騒動へと繋がっているからだ。第三弾となる本書では、大名暗殺の一件を遠因として、黙兵衛を狙ったことから死んだ娘の仇を討つため、父親の商人が一万石の賞金を懸ける。これにより殺し屋たちが、次々と、黙兵衛や彼を慕って行動を共にしている伊之助に襲いかかるのだ。どんな敵にも動じることなく、淡々と返り討ちにしていく、黙兵衛の圧倒的な強さが痛快だ。
その一方で、伊之助の成長も本書の大きな読みどころになっている。前巻で、ふたりの兄を殺されて気落ちしていた伊之助だが、黙兵衛の教えを受け、メキメキと剣の腕を上げた。そして敵とはいえ、初めて人を殺めてしまうのだ。ついに一線を越えてしまった伊之助が、いかなる人生を歩むのか。ますますシリーズから、目を離せなくなったのである。