愛する女性を失った傷心を抱え、吉原で暮らす若侍・織江緋之介を主人公にしたシリーズは、第五弾に至り、さらに興趣を増した。徳川家に仇なすという、妖刀村正の相次ぐ盗難事件。吉原を支配下に置こうとする、幕閣の陰謀。そして次期将軍の座を巡る、甲府と館林の蠢動……。果てなき権力の妄執を、小野派一刀流と柳生新陰流を学んだ、緋之介が断つ。村正を奪う忍びとの闘いや、吉原に乗り込んできた無頼者を斬り伏せる活躍など、血風は止まるところを知らず、ストーリーはヒートアップする。
しかもラストは、将軍を狙う刺客たちとの、大チャンバラだ。剣の境地や女性との関係を、一段と進化させた緋之介が、天晴れな活躍を見せてくれるのである。緋之介の父親の小野忠常や、叔父の忠也の見せ場もたっぷり。剣豪小説の面白さを、とことん堪能できるのだ。
なお、村正を巡る謎は、次巻に続いている。作者がどんなアイティアを用意しているのか、楽しみでならない。