作家への道
今から二十年前。ひどい不景気だった。資金繰りが厳しくなったA社長が目をつけたのが、私の働いていたB社の預金だった。
B社はA社長のC社を親会社としていたが、営業所ではなく、C社にテラ銭を払って独立採算で営業している会社だった。B社は社員に薄給を押しつけることで、相当の金を貯め込んでいた。B社のD社長いわく「今は賃貸だけど、いつか自社ビルを建てようと思っている。だからいま必死にお金を貯めている」。
ところが、その預金がほしくてならないA社長はB社をわざわざC社の営業所にしたのだ。営業所にすれば、もはや別会社ではないからB社の預金はC社のもの。自由にできる。
その一年後、B社の預金を吸い尽くしたA社長は営業所を廃止するといってきた。
私はサラリーマンをやめ、前からなりたかった作家を目指すことした。
今ではA社長に感謝している。作家を目指している時に怒りを込めて書き上げたのがデビュー作となった『義元謀殺』だったからだ。
[平成28年(2016)3月12日]
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