老中・松平伊豆守直属の隠密である、葵十三郎の活躍を描く「用心棒血戦録」シリーズの最新刊が上梓された。それが本書だ。上野国松坂藩のお家騒動を知った十三郎は、小者の茂平や兵法者の神林弥五郎たちと共に、江戸から国許に向かった四人の藩士を護り、血路を斬りひらくのだった。
と、粗筋だけ書き出すと、いつもの鳥羽作品である。しかし、それが分かっていても、手に取らずにはいられない。チャンバラ・ファンのツボを、気持ちよく押してくれるからだ。たとえば十三郎の敵は、馬庭念流の遣い手である。上州で生まれ広がった流派であり、上野国の松坂藩士に相応しい。こういう的確な流派のチョイスが、チャンバラ・ファンを嬉しがらせるのである。
もちろん剣戟描写も抜群だ。一刀流の十三郎に真気流槍術の弥五郎。一方、敵方は馬庭念流の藩士だけではなく、闇目付と呼ばれる忍者のごとき一団までいる。刀槍が疾り、手裏剣が飛ぶ闘いの連続に、血が滾ってしかたがないのだ。