書物目利所 達眼老練の四〇〇字書評 細谷正充

細谷 正充

ふたり女房

京都鷹ヶ峰御薬園日録

澤田瞳子 /著

レーベル:徳間文庫
出版社:徳間書店
刊行日:2016年1月7日
価格:660円+税
判型:文庫

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 デビュー長篇『ようの天』から高い評価を受け、硬質な歴史小説作家と思われていたさわとうは、本書でエンターテインメント色豊かな短篇シリーズの書き手でもあることを証明した。主人公は、京都の鷹ヶ峰にある幕府ちょっかつの御薬園で働く、訳ありの女薬師・もとおかくず。第一話「人待ちの冬」で彼女は、評判の悪い薬問屋「成田屋」を巡る騒動にかかわることになる。
 時代小説シリーズには、ミステリー・タッチのものが少なくないが、本書もその系列に連なるものといっていい。怪しい民間療法の真実に迫る第二話「春愁悲仏」、御薬園の薬の盗難を発端にした第五話「初雪の坂」など、どれもミステリーの面白さと、その裏に秘められた人間の哀しみが、巧みにつづられているのだ。
 さらに第六話「かゆづえ打ち」では、宮内で行われる〝粥杖打ち〟というユニークな行事が、ストーリーに絡めて紹介されている。こうした意外な歴史トリビアを知ることができるのも、本書の魅力になっているのだ。

細谷 正充

ほそや まさみつ

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