時は明治二十四年。三遊亭圓朝の弟子に、噺家らしからぬ風貌の圓士という男がいた。それもそのはず。圓士の本名は松平新左衛門といい、元大身旗本であったのだ。かつて一緒に彰義隊へ参加した、三人の幼馴染と共に、裏稼業をしている圓士。それは、明治の世の理不尽に泣く人々を助けるためであった。
序章で主人公たちを紹介した牧秀彦は、続く「士族の気概」で、圓士たちを存分に暴れさせる。自身も過去を引きずる圓士は、列車強盗団の正体に複雑な思いを抱きながら、アメリカの思惑まで絡んだ騒動に斬り込んでいく。強盗団を破滅から救おうとする、圓士の行動が爽やかだ。
そして「維新の老剣鬼」では、戊辰戦争の怨念を背負った旧会津藩士の老剣鬼に圓士が挑む。噺家という設定を生かし、落語『たがや』を使った、対決シーンが秀逸だ。過去を胸に秘めながら、新時代を生きていこうとする圓士。本書一冊で別れるには惜しい、魅力的な主人公である。