書物目利所 達眼老練の四〇〇字書評 細谷正充

細谷 正充

さむらい残党録

牧秀彦 /著

レーベル:徳間文庫
出版社:徳間書店
刊行日:2015年12月3日
価格:660円+税
判型:文庫

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 時は明治二十四年。さんゆうていえんちょうの弟子に、はなしらしからぬふうぼうえんという男がいた。それもそのはず。圓士の本名はまつだいらしんもんといい、元大身旗本であったのだ。かつて一緒にしょうたいへ参加した、三人のおさなじみと共に、裏稼業をしている圓士。それは、明治の世の理不尽に泣く人々を助けるためであった。
 序章で主人公たちを紹介した牧秀彦は、続く「士族のがい」で、圓士たちを存分に暴れさせる。自身も過去を引きずる圓士は、列車強盗団の正体に複雑な思いを抱きながら、アメリカの思惑まで絡んだ騒動に斬り込んでいく。強盗団を破滅から救おうとする、圓士の行動が爽やかだ。
 そして「しんの老剣鬼」では、しん戦争の怨念を背負った旧会津藩士の老剣鬼に圓士が挑む。噺家という設定を生かし、落語『たがや』を使った、対決シーンが秀逸だ。過去を胸に秘めながら、新時代を生きていこうとする圓士。本書一冊で別れるには惜しい、魅力的な主人公である。

細谷 正充

ほそや まさみつ

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