書物目利所 達眼老練の四〇〇字書評 細谷正充

細谷 正充

高瀬川女船歌〈八〉

偸盗の夜

澤田ふじ子 /著

レーベル:徳間文庫
出版社:徳間書店
刊行日:2015年11月6日
価格:660円+税
判型:文庫

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 さわふじの人気シリーズ「高瀬川女船歌」の第八弾には、ふたりの重要人物が登場する。すみのくら会所の目付役のおおつきでんぞうが故郷から連れてきたしちと、会所で台所働きをしているお琴だ。
 冒頭の「冬のつづみ」で、ふたりを手際よく紹介した作者は、まず、お琴の巻き込まれた恋愛事件を綴っていく。もちろん事件に立ち向かうのは、高瀬川沿いの居酒屋「わり屋」の主で、元尾張藩士のそういんだ。この一件で知らされたお琴の過去の重いトラウマは、ラストの「ちゅうとうの夜」で解決されることになる。
 一方、高瀬川の船曳きになった佐七は、第三話「幼児の橋」で、幼女を巡る騒動に絡んで、絵心があることが明らかになった。そして第五話「佐七町番屋日記」では、扇絵師に弟子入りしている。このふたりの若者の生き方が、本書の注目ポイントだ。
 その他、元罪人の再起を描いた、第二話「おわりの雪」と、第四話「因果応報」もいい。どの話にも、人の世の厳しさと優しさがあふれているのである。

細谷 正充

ほそや まさみつ

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