書物目利所 達眼老練の四〇〇字書評 細谷正充

細谷 正充

幸村去影

津本陽 /著

レーベル:徳間文庫
出版社:徳間書店
刊行日:2015年11月6日
価格:670円+税
判型:文庫

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 歴史小説の書き方は、大別して二通りある。ひとつは主人公の人生を丸ごと描く手法。そしてもうひとつは、主人公の人生の一部を切り取る手法である。さなゆきむらを主人公にした本書は、大坂の陣から始まるので、後者の手法といっていいだろう。だが、作者がもとようだ。最初からクライマックスの緊張感を漂わせながら、随所に過去の回想や言及を入れることで、幸村の人生を的確に捉えることが出来るようになっている。さすがは斯界の大ベテランである。
 さらに、大坂城でかんたんあいらす仲になるとうまたとのこうや、かつての恋人のいとと、その兄のほっさくの参戦も見逃せない。特に、いとの存在が、死に向かっている幸村の人生を、温かく彩っている。戦闘シーンの迫力は当然として、愛する者の存在を通じて、幸村の人間臭さも、深く掘り下げられているのだ。真田幸村の生涯のクライマックス焦点を合わせながら、大長篇にも比肩しうる濃厚な内容が味わえる、戦国小説の収穫である。

細谷 正充

ほそや まさみつ

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