好調な「日比野左内一手指南」シリーズも、第三弾となる本書で完結を迎えた。短篇六作が収録されているが、第二話「兄はやってきた」でキー・マンである主人公の腹違いの兄が登場すると、一気にストーリーが進展する。加賀藩士の左内が深川で五坪道場の主になった原因である、父親の闇討ち事件の真相が明らかにされたのだ。
さらに以後の話で、状況はエスカレート。ついには加賀百万石の存亡を左右するほどの騒動に拡大していくのだ。そして最終話「無我の剣」で左内は、すべての元凶である最大の敵と対決。多くの人々によって培われた、迷いなき一撃で、加賀藩の暗雲を晴らすのだ。キビキビした文体で綴られるチャンバラは、シリーズの決着に相応しい迫力であった。
また、相思相愛でありながら、男女の仲になれないでいた、左内と尼崎藩の茜姫の件も、好ましい場所に着地する。最後の最後まで、読者の期待に応えた、痛快な時代エンターテインメントである。