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戦国武将信長としての人間関係

麻嶋 それは楽しみです。今回は岐阜縛りということで、映画ではなく舞台のような感じですよね。さぞや大変なのではないかと思いますが。

早見 それは、かえってやりがあります。岐阜時代の信長ということでね。何かひとつ大きな縛りがないと、みんな薄まっちゃいますからね。そうしたら今までの信長の小説と変わらなくなってしまいますし。

麻嶋 舞台は岐阜限定だけれども、物語自体は広がっているということですね。

早見 そうですね。ほかに、対立軸というのを考えたときに、さいとうたつおきの存在というのがどうしても気になりました。を奪った者と追われた者、しかもそのひとつの区切りとなったあさくらの戦いまで抵抗しつづけた武将なのですが。

麻嶋 信長を書きませんかと言われたときに、最初に龍興が出てきた感じなのですか。

早見 最初、というか、岐阜庶民との交わりということがまず頭に浮かんで、そこから信長が岐阜をつくることによって当然いろいろなあつれきが生まれてくるはずだろうと。その最大の被害者が――まぁ、戦国の世に被害者もなにもないんですけども――追われたふたり、斎藤龍興と信長の妻であるちょうのうひめ)なんです。彼女が亡くなった時期についてはさまざまな説がありますが、ひょっとしたら生きていたかもしれない。その追われた者ふたりと信長との関わりを描きたいと思いました。

麻嶋 龍興と帰蝶のふたりにぜひ注目、期待してほしいということですね。

早見 そうですね、やはり帰蝶との関係は想像の世界ですけど、帰蝶とどういうふうになっていくのか、ということですね。当然策伝の活躍もあるんですが、信長が追った者ふたり、龍興は敗死してしまい、帰蝶は信長のもとに戻るのかというところ。それから覇道を突き進んでいく上で、鬼になっていかざるを得ない信長と、反面で笑いを好む、笑って暮らせる世の中をつくるんだというその顔ですね。岐阜・わり・美濃を信長自身は本国と表現しているんですけど、その本国をひとつの大きな家庭と考えた場合、岐阜に帰ってきたときの信長が、家庭における父親のようにくつろぐというか、安らぐときがあってもいいかな、と思うんですね。信長は生涯、父・のぶひでの教えである、「戦は他国でやれ、自国でやるな」というのを守ったわけです。おけはざのときもろうじょうしなかったというのはその教えがあったからで、できるだけ外に出て、結局攻め込まれて桶狭間まで来てしまったんだけれども、とにかく他国で戦う。自国で戦ったら領民が苦しむだけだという思いがあった。比叡山えんりゃくを焼き討ちにしたり、一向衆徒を攻め殺したり、そういうものすごく怖い戦国武将としての信長である一方で、残虐非道は本国ではやらない信長なんだと。岐阜に帰ってきたときは非常に優しくていいお父さまで、お坊さまを何千人も殺したなんて信じられんと弥吉たちがびっくりする、そういう面はありかなという気はするんですよ。

麻嶋 「好きで戦っているんじゃない」という台詞せりふがありますね。

早見 お前たちがほんとうに暮らしていける世の中にしたいんだ。だけど、そうするにはな――。と、そこで悩む信長というか。決して神様でもなんでもないわけだから、全部見通せるわけはない。多くの計算違いがあったり、思いもかけない罠があったり、葛藤が現れたり、誤解が生じたりというなかで、正しい判断ばかりすることはできないわけです。間違った判断をしてしまっても、また、それが原因で敗北してしまっても、勝利にもがき続けるひとりの武将としての信長がいるはずなんですよね。

麻嶋 功罪が同居して、言動が矛盾していながらも、それを自覚してもがく信長ですね。第1回目の信長の描写から、この先の狙いがとてもよく伝わってきます。また、小説の冒頭から登場するひでよしのキャラクター造形がしゅんいつで、信長とうまく対照的になっているのではないでしょうか。表面ではテンションは高いけれど、妙に落ち着いていて、言動に一本筋が通っています。それに、なまりやリアクションなどが、頭の中に映像として浮かぶといいますか。

早見 やはり陽性の秀吉を描きたいという気持ちもありましたからね。秀吉もきのしたとうきちろう時代は、ほんとうに面倒見のいい、いかにもちょっとお調子者だけども非常に頭がきれて、はしがきいて、仕事ができるけれども、できるところをあまり表立って見せないというイメージがあるので、それをもうちょっと強調しようかと思っています。

麻嶋 2回目には、信長がいよいよ鵜飼を見る場面が描かれていますが、読みどころとして力が入りましたか?

早見 その場面には、敵対するたけ家の武将・あきやまとらしげをもてなすという歴史的事実が含まれているので、鵜飼でのもてなしに信長が託した思惑がどういうものであったのか、という理由を読んでいただきたいですね。岐阜を、美濃を獲った先の、京を見据えての布石となるようなものですから。

麻嶋 美濃を獲った理由や、その後の行動の理由などもお書きになられていて、信長の人間像だけではなく、政治的経済的配慮についても、早見先生の自説をしっかり披露されているのが素晴らしいと思います。なるほどそうだったのか、という歴史の読み解き方を、整合性あるように組み入れるというのは難しいですけれども、その組み入れ方が巧いと思います。人間信長と武将信長の割合もちょうどいい具合ですし。

早見 それはやはり、信長に求める読者の楽しみというか、意外な面を知りたいというのと、自分たちが抱く信長の凄さというのも、描くべきだというのも当然あると思います。まったく戦をしない信長を描いてもね、討ち入りしないちゅうしんぐらを描くようなものですから(笑)。

麻嶋 たしかに仰る通りですね(笑)。名残惜しいのですが、そろそろお時間が……今日は本当にありがとうございました。章ごとの最終話に載るコラム「岐阜市歴史探訪」も楽しみにしています!

早見 ありがとうございます。ひとりでも多くの方に楽しんでいただけるよう、完走したいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

(了)


 信長といえば岐阜、岐阜といえばぎゅう。ということで、“つきてい 本店新宿”さんの、しい飛騨牛のすき焼きをごそうになりながらの、とてもぜいたくなインタビューとなりました。
 編集部の方によると、普段の早見先生はとても物静かで、照れ屋だそうですが、今回のインタビューでは、ご自身の信長論、戦国時代の世界観、当時の岐阜のようなど、熱っぽくも丁寧に語ってくださいました。
 また、途中で紹介されました、『常世の勇者 信長の十一日間』も、ぜひ手に取ってみてください。岐阜時代以前の信長と山科言継きょうとの意外な関わり合いや思惑などに驚かされること間違いありません。
 次に掲載される最新話が今から待ち遠しいです!

「醒睡の都 岐阜信長譜」第1回目第1話はこちらです。

『常世の勇者 信長の十一日間』はこちらでお買い求めできます。

佐々木裕一先生の「おにがみ」は、こちらからご覧いただけます。

秋山香乃先生も当サイトで、「夫婦逍遥 鳴かぬ蛍」を連載中です。

“月亭 本店新宿”さんの情報はこちらからどうぞ。

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