本書は『新選組出陣』に続く、歴史時代作家クラブ編の、書き下ろしアンソロジーの第二弾だ。多田容子・天堂晋助・嵯峨野晶・喜安幸夫・井川香四郎・誉田龍一・芦川淳一・聖龍人・平谷美樹の九人が参加している。
テーマは〝幕末のスパイ〟だが、物語の内容は幅広い。薩英戦争で躍動した山伏忍者が〝和魂洋才〟の境地を得る井川香四郎の「桜島燃ゆ」のような忍者を主人公にした作品があれば、会津藩士の大庭恭平の跳梁を通じて、攘夷派公家の姉小路公知暗殺事件に肉薄した天堂晋助の「会津の隠密」のように、実在人物を取り上げた作品ありといった具合だ。
また、彰義隊崩れの旗本が、敵地となった江戸に潜入する芦川淳一の「逃げる旗本」など、文庫書き下ろし時代小説シリーズを抱える作家が、普段とは違うテイストの秀作を発表しているのも興味深い。
詳しく触れる余地がなくなったが、その他の作品も読みごたえ抜群。どこから読んでも楽しめる、アンソロジーの収穫である。