京都の中心部と伏見を結ぶ高瀬川に集う人々を描く、澤田ふじ子の「高瀬川女船歌」シリーズも、本書で第六弾になる。仇討ちの旅で困窮した少年と母親。それを見かねて、封印していた博才を解放した下僕。シリーズでお馴染みの旅籠「柏屋」に逗留する三人の事情を知った、居酒屋の主の宗因たちは、彼らの為に奔走する。
このエピソードを縦糸にして、娘を思う母親の気持ちが暴走する「親のなさけ」や、健気に生きる子供のために宗因がひと肌脱ぐ「濁世の剣」など、収録された六篇は、どれも読みごたえあり。親子の絆や、人の情けに、心が温かくなるのである。
しかし一方には、他者を思いやる気持ちが悲劇を招くという、衝撃的な展開もある。そこには、世界は幸せだけで成り立っているユートピアではないという、作者の厳しい認識があるのだ。喜びも悲しみも、とびっきり。だから、高瀬川の水面に映る人々の哀歓は、いつまで見ていても、飽きることがないのである。