書物目利所 達眼老練の四〇〇字書評 細谷正充

細谷 正充

喜知次

乙川優三郎/著

レーベル:徳間文庫
出版社:徳間書店
刊行日:2015年6月5日
価格:710円+税
判型:文庫

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 喜知次きちじと呼ばれる魚がいる。五百石取りの祐筆ゆうひつ嫡男ちゃくなん日野小太郎ひのこたろうは、我が家に引き取られた六歳の少女の花哉かやに、その喜知次という綽名あだなを付けた。時間をかけて、互いを意識していく小太郎と花哉。だが藩内では、派閥抗争が激化していた。小太郎と、友人の牛尾台助うしおだいすけ鈴木猪平すずきいへいは、抗争の影響で苦しみを味わいながら、それぞれの道を歩んでいく。

 一揆いっきが起こっても終わることなき藩内抗争。それは弱者を犠牲にする、醜悪なものであった。猪平を見舞う悲劇を通じて、このことを知った小太郎は、自分が何をすべきか、しだいに思い定めていく。少年の成長たんというには、あまりにも厳しい内容だ。それだけに未来を見据えて伸びていく主人公の姿が、強く胸を打つ。

 さらに、一服の清涼剤となっていた小太郎と花哉の関係も、終盤で、過酷な展開を迎える。でも、だからこそ、この作品は素晴らしい。ラストの主人公の感慨を見よ。人の世の真実が、鮮やかに表現されているのだ。

細谷 正充

ほそや まさみつ

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