赤佐汰那の書見台 赤佐汰那

「戦国や江戸って、どんな時代なの?」「昔の人たちが喋っていた言葉とか、食べていた料理とか、着ていた服とか、まったく想像できない⁉︎」「時代劇はどこまで本当なんだろう?」などなど。
 とどのつまり、「歴史時代小説をもっと愉しみたい!」、常々そう思っているあなたのために贈るのが、このコーナーです。
 歴史時代作家を目指す人たちも必読、デビューの近道となるかもしれませんよ!

第9話

歴史を捌く料理人



『語る歴史、聞く歴史 オーラル・ヒストリーの現場から
 大門正克/著

 歴史・時代小説は、歴史的事実を大なり小なり参照することで成り立っている文芸分野である……。なんて硬い書き出しからスタートしてしまったが、何のことはない。歴史・時代小説は過去を扱う文芸のため、どうしても歴史学の成果物を参照しなければ成立しえないということを言いたいだけである。歴史・時代小説を書きたい方もここをご覧になっていると思うのであえて申し上げておくが、歴史・時代小説を書くにあたって歴史学の習得は必須ではない。小説は結局のところは面白さだけで担保されるものであり、歴史学をうまく参照しているかどうかは二の次だと考えたほうがよい。しかし、一方で、小説家は様々な素材を見事に捌く“料理人”という面も有しており、名料理人になりたいならばその材料にまで注意を払うべきではある。歴史・時代小説家になりたい人は、ある程度、歴史学の思考法を学んでおいた方がいい所以はここにある。
 さて、本日紹介するのは『語る歴史、聞く歴史 オーラル・ヒストリーの現場から』大門正克/著、岩波新書)である。本書は日本近現代史を研究してきた著者が、文献史料とはまた違う「口碑」「聞き取り」といった作業の困難や苦労をまとめた本となっている。本書は近現代史におけるオーラル・ヒストリーの歴史を回顧した上で、著者が聞き取りの最前線でどのように悩み、どのように格闘していたかを述べている。
 本書には「どのように口碑を収集し、どのように取捨し、どのように形にするのか」の困難が語られている。ある意味、取捨と形にする行為は文献史学との違いはそれほどないようにも思えたが、特に収集段階での苦労は口碑ならではである。学者が目的を持って聞きに行ってしまうと証言に歪みが生まれる。従って、当時のことを筋道つけずにそのまま話してもらうという姿勢が必要(本書ではaskとListenと表現)だとしている。この一例からも明らかなように、歴史学という学問にとて(厳密には)現実との間にわずかな歪みがあるのである。
 もちろん、これは誤差レベルの違いであることも多いから、過度に怖がる必要はない。だが、歴史という物語に向き合う際には、頭の隅に置いておいた方がいい。特に、歴史を素材に“料理”を作ろうと考えている方にとっては、この誤差は呑み込んでおくべきである。
 本書は極めて手に取りやすく(何せ2017年刊である)、オーラル・ヒストリーのもつ厄介さや性質が紹介されている。歴史を利用して何かを創ろうという方にも、なにがしかのヒントになるはずである。

出版社:岩波書店
刊行日:2017年12月21日
価格:860円+税

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[平成30年(2018)1月30日]
赤佐 汰那

赤佐 汰那

あかさ たな

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