赤佐汰那の書見台 赤佐汰那

「戦国や江戸って、どんな時代なの?」「昔の人たちが喋っていた言葉とか、食べていた料理とか、着ていた服とか、まったく想像できない⁉︎」「時代劇はどこまで本当なんだろう?」などなど。
 とどのつまり、「歴史時代小説をもっと愉しみたい!」、常々そう思っているあなたのために贈るのが、このコーナーです。
 歴史時代作家を目指す人たちも必読、デビューの近道となるかもしれませんよ!

第2話

「百姓は米を食べられない」は本当か?



『近世庶民の日常食 百姓は米を食べられなかったか
 有薗正一郎/著

「江戸時代、農村では米が食べられなかった」という言説が巷に溢れている。曰く、江戸期、米は年貢用・ハレの日用作物であると同時に商品作物であり、おいそれと口にはできなかった。また、たびたび出されている大名家からのお達しにも、農民が米を食べ過ぎないようにとある。江戸期の農民は米を食べることなく過ごしていたのだ……。
 有名な「江戸期の農民は米を食べられなかった」説であるが、実際のところはどうだったのだろう。そんな疑問に答えてくれる一冊がこちら、『近世庶民の日常食 百姓は米を食べられなかったか』有薗正一郎、海青社)である。著者の有薗氏は地理学者。その豊富な知見やフィールドワークの成果により、江戸期の作物の生産状況や作物の流通状況をつまびらかにし、江戸期農村部での食糧事情を叙述してゆく。
 本書は江戸期の食糧事情を「地産地消型」と指摘する。中には近隣地域に“輸出”するほど米を産出する地域もあれば、年貢米の他には殆ど米が残らない地域もあり、そうした地域ではサツマイモなどのでんぷん質を中心に日常食を組み立てているという。
 また、米の産出が多い地域であっても白米のみを食すことはあまりなく、米と一緒に一割~二割程度雑穀類を混ぜて炊き、嵩増しをしているという事例が多いのだという。大都市から来た人々が農村でご飯を頂くと、雑穀混じりの米がさも雑穀そのものに見えてしまうということらしい(ご丁寧にも本書の表紙には雑穀を混ぜて炊き込んだ米の様子が掲載されている)。概して、江戸期の農村では雑穀を混ぜながらも米を食べていたのである。
 また、本書の指摘で興味深いのは、江戸期の食糧事情における大豆の地位である。
 ご存じのとおり、仏教や神道の忌避意識もあって肉食は「ももんじ」「薬食い」と称され、日本においてはあまり一般的な食習慣ではなかった。臨海地域や河川流域ならば魚食もできたろうが、内陸部における蛋白源確保は当時の人々にとっても頭を悩ます問題であったはずだ。蛋白源のルートが狭い江戸期にあって、大豆製品、ことに味噌の占める重要性に関するくだりは目から鱗の指摘である。
 本書は江戸期の日常食が地域に深く根差したものであり、農村の人々が限られた食材の中で日常食を組み立てて暮らしていたという歴史を知ることのできる一冊である。

出版社:海青社
刊行日:2007年4月1日
価格:1,800円+税

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[平成29年(2017)7月7日]
赤佐 汰那

赤佐 汰那

あかさ たな

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