赤佐汰那の書見台 赤佐汰那

「戦国や江戸って、どんな時代なの?」「昔の人たちが喋っていた言葉とか、食べていた料理とか、着ていた服とか、まったく想像できない⁉︎」「時代劇はどこまで本当なんだろう?」などなど。
 とどのつまり、「歴史時代小説をもっと愉しみたい!」、常々そう思っているあなたのために贈るのが、このコーナーです。
 歴史時代作家を目指す人たちも必読、デビューの近道となるかもしれませんよ!

第1話

主君も押し込まれた⁉︎



『主君「押込」の構造 近世大名と家臣団
 笠谷和比古/著

 時代小説の定番といえば、「御家騒動」を挙げることができよう。
 天下泰平の江戸時代に、御家を乗っ取らんと画策する佞臣が藩内で暗躍し、善玉家臣がその野心を挫かんと奔走する……。歌舞伎の演目にもなった伊達騒動の名を耳にされたことのある方もおられることだろう。また、某家具メーカーの経営者親娘の争いを指して「御家騒動」と報じられたのも記憶に新しいところだ。
 が、江戸時代、実際に起こった御家騒動には、一定のルールめいたものが存在しているのをご存知だろうか。
 こんな本がある。「主君『押込』の構造」(笠谷和比古 平凡社)。
 1980年代の本であるが、現在でも御家騒動に関する一般書や論文などでも盛んに言及される、この道のバイブルのような書籍だ。本書はそれまでは例外的事件とされていた御家騒動(≒主君押込)が、江戸期を通じてありふれた物事であったこと、また、家臣が主君を押し込める際には一定のルールや規範意識が働いていたことを多数の実例から示した、エポックメイキングな本である。
 江戸時代は儒教道徳によって身分が固定されていた時代であるゆえに、表立った下剋上には倫理上の問題があった。しかし、身分が固定され切ってしまうと、たまたま主君が不適格者であった場合に家臣団や藩が多大な損失を負うことになる。そんな身分制社会特有の不合理を除く手続きとしての御家騒動(≒主君押込)というシステムを知ることができるだろう。また、御家騒動という極限的な君臣関係をテーマにすることで、江戸時代の主君と家臣の距離感や、主従関係の実際が逆照射される仕組みにもなっている。本書を読み終わると、江戸期の主従関係は必ずしも主君に対して家臣が完全服従でなく双務的な関係だったという実態も見えてくることだろう。
 本書を手に取ってみていただきたい。当時の主君と家臣の本音の声が聞こえてくるのみならず、御家騒動もの時代小説の奥行きがさらに広がること請け合いである。

レーベル:講談社学術文庫
出版社:講談社
刊行日:2006年10月11日
価格:1,000円+税

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[平成29年(2017)6月7日]
赤佐 汰那

赤佐 汰那

あかさ たな

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