書物目利所 達眼老練の四〇〇字書評 細谷正充

細谷 正充
細谷 正充

野望の憑依者よりまし

伊東潤/著

レーベル:徳間時代小説文庫
出版社:徳間書店
刊行日:2017年7月7日
価格:740円+税

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 本書は伊東潤が、初めて南北朝時代に挑んだ歴史小説である。主人公は、鎌倉時代後期から南北朝時代を猛々しく生きた、あしかが家執事のこうのもろなお。さまざまなエピソードから〝悪逆非道〟と評される武将であり、人気は高くない。
 ではなぜ、そのような人物を取り上げたのか。巻末に付された、作者と文芸評論家の縄田一男との対談によれば、まず歴史ピカレスク・ロマンが書きたいという思いがあり、それで歴史上の悪漢は誰かと考えたとき、高師直が浮かんだという。そもそもの出発点は、人物への興味ではなかったのだ。
 にもかかわらず本書の師直は、ダーティーな魅力に満ちている。鎌倉幕府の崩壊・けんの新政・皇統の分裂……。激動の時代に野望をたぎらせ、理想とする世界を創ろうとする師直の悪漢ぶりが、まさに圧巻なのだ。
 さらに、師直が恋する篠という女性や、師直に引き立てられた山崎佐平次など、脇役陣の描き方も素晴らしい。高師直を主人公にした小説は、本書で極まったのだ。

細谷 正充

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ほそや まさみつ

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